循環器診療におけるポケットエコーの有用性:
「Vscan Air SL」による心臓Point-of-Care超音波検査
名古屋市立大学大学院医学研究科 循環器内科学 主任教授
一般社団法人 日本心エコー図学会 副理事長
瀬尾 由広 先生


超高齢化が進むわが国では、心不全患者が急激に増加の一途を辿っている。心不全診療を専門医のみで行うには限界があり、地域における医療連携が不可欠となっている。特に在宅診療へのニーズが拡大している中で、最近は心エコーにも対応するポケットエコーが登場し、心不全の早期発見、的確な診断への貢献が期待されている。今回、心エコーによる心不全の診断、観察の重要性を広く啓発している瀬尾由広氏に、日常診療でポケットエコーを活用するポイントやそのメリットについてお話をうかがった。

需要が高まる心不全に対する在宅診療

2022年の人口動態統計によると、日本人の死因の第1位は悪性新生物の24.6%、第2位は心疾患の14.8%であり1)、心疾患は日本人の主要な死因であることがわかります。中でも超高齢化を背景に心不全患者が急激に増加しており、いわゆる心不全パンデミックが進行しています2)。また、高齢者人口の増加、生活習慣の欧米化などの影響を受けて心不全の臨床像も質的に変化しており、左室の収縮機能が保たれた心不全(HFpEF)や虚血性心疾患に伴う心不全の増加などが注目されています2)。 急性増悪を繰り返すことの多い心不全は、再入院率が高く患者さんやご家族への負荷とともに医療経済の圧迫にもつながっています。フレイルなどの身体機能や認知機能などにも悪影響を及ぼすことも懸念され、再入院率をいかに減らすかが心不全診療の重要な課題となっています。また高齢者は、がん、呼吸器疾患、高血糖、腎疾患など多くの併存疾患を有していることも多く、個々の患者さんに応じた多様な治療選択が求められます。このような心不全患者さんの診療を循環器専門医のみで行うには限界があり、かかりつけ医の先生方を核にした地域における医療連携が欠かせません。最近は訪問看護師さんによるケアも広まっており、心不全に対する在宅診療や訪問看護の需要もますます高まっていくと思います。

心不全診療における心エコー図検査の重要性

心不全は一つの疾患名ではなく、冠動脈疾患、心筋症、弁膜症などの心疾患が最終的に至る病態を示します。そのため、心不全が疑われる患者さんに対しては、心不全の原因となる心疾患の状態を的確に判断し、治療介入することが重要です。また、心不全発症後も病態の変化の有無を継続的に観察し、急性増悪を回避する治療が求められます。 息切れや動悸などを主訴に受診、体液貯留など心不全特有の症状がある場合、聴診、胸部X線検査、心電図検査、血液検査などで心不全を確認しますが、加えて心エコー図検査を実施することがとても重要です。心機能や血行動態、体液貯留、弁膜症などの状態を把握することで、心不全の診断のみならず原因疾患の探索、重症度の評価なども行えるわけです。診断、治療介入後においても、経時的に心エコー上の変化を観察することで、治療効果の評価、予後予測などに有用な情報となります。何より、非侵襲的で患者さんの負担が少なく繰り返し施行できること、その場で結果がわかることなどが、心エコー図検査の大きな利点です。

心臓領域におけるPoint-of-Care超音波検査の有用性

心エコー図検査の利点を活かすため、最近はベッドサイドで行うPoint-of-Care超音波検査(POCUS)が、さまざまな疾患の診療で施行されるようになりました。心臓領域では、標準化された限定的な断面を基準にプロトコールに従って行うことができるPOCUSとしてFocus(focused) cardiac ultrasound(FoCUS)が開発され、欧米では日常臨床で活用されています。日本においても、主に非循環器医が施行することを前提として診療手技として広く普及させるために、FoCUSの実践と活用、教育に関する「手引き」が2023年9月に日本心エコー図学会から発行されています3)。 基本的にFoCUSは、包括的心エコー図検査で施行されている計測は行わず肉眼的な評価を行います。近年、携帯が可能なポケットエコーの性能が向上しており、FoCUSの有用性がさらに注目されてきているのではないでしょうか。 外来診療や在宅診療において、かかりつけ医の先生方が積極的にFoCUSを行うことで、心不全、急性冠症候群、肺血栓塞栓症、心膜心筋炎などの重篤な心疾患の早期診断・治療に寄与することが期待されます。また、患者さんとの距離が近い看護師さんが積極的にFoCUSを行い、必要に応じて医師の適切な指示を受けるようにすれば効率的です。たとえ、心エコー図検査の経験が少ない医療従事者であっても、フィジカルアセスメントや身体所見にFoCUSを組み合わせることで、より具体的かつ客観的に病状の変化をとらえることができます。

「Vscan Air SL」によるFoCUSへの期待

Vscan Air SLにはセクタとリニアのデュアルプローブが採用され、聴診器のように手軽に持ち運べて、いつでもどこでも高画質な画像による心エコーが可能となっています。パルスドプラやMモードなどの機能も搭載され(図1)、多角的で幅広い診断サポートを実現しています。従来の機種(Vscan Air CL)と同様に、スキャンした画像の表示や操作はスマートフォンやタブレットの専用アプリで行えることから、ベッドサイドでもすぐに画像を確認することが可能です。ワイヤレス化によりケーブルが絡まるなどのストレスも感じません。このVscan Air SLは、心エコー図検査に不慣れな方やFoCUSの教育ツールとしても有用だと考えています。 また、Vscan Air SLには11のプリセットが搭載され、簡便に画像共有できるという特徴も有しています。セクタは心臓、腹部、産婦人科、肺、経頭蓋(TCD)、リニアは血管、筋骨格系、肺、体表、神経、新生児頭部のプリセットを搭載しており、プローブ1本で深部から浅部まで全身の検査が網羅されます。最近は肺エコーをFoCUSと併用することが心不全の診断や経過観察にも有用であるとされており3)、胸部レントゲン撮影ができない在宅診療では肺エコーに対応したVscan Air SLの有用性は高いと考えられます。 このように、病棟や外来、在宅まで、幅広い場面でVscan Air SLの活用が期待できると感じています(図2)。

初心者はまず「傍胸骨左縁長軸断面」の観察から

日本心エコー図学会の「手引き」にあるFoCUSのプロトコールでは、心窩部、傍胸骨左縁、心尖部の3つのアプローチで5つの断面(心窩部下大静脈長軸断面、心窩部四腔断面、傍胸骨左縁長軸断面、傍胸骨左縁短軸断面、心尖部四腔断面)を観察する方法が記載されています3)。

心エコーの初心者は、5つの断面をいきなりマスターしようとすることは避け、まずは心エコー図検査の最も基本となる断面である「傍胸骨左縁長軸断面」をよく観察することから始めることをお勧めします。前壁中隔と下側壁(後壁)が観察でき、さらに左室、右室のサイズと収縮能、心膜液や胸水の貯留の有無、大動脈弁と僧帽弁の状態などを評価することができます。このように、まずは「傍胸骨左縁長軸断面」から左室の状態に注目し、異常の有無が把握できるようになった後に、次のステップに移行するとよいと思います。たとえば、左房が大きいかどうか見分けられるようになると、HFpEFの初期の診断に役立ちます。敷居を低くしてポケットエコーを活用するなどもっと手軽に心エコーに取り組んでほしいと思います。

高齢者を多く診ておられるかかりつけ医の先生方や訪問看護師の方々がポケットエコーによるFoCUSを習得し、未病、急性期、慢性期の各段階で心臓の状態を把握するようになれば、心疾患の発症・増悪の早期発見につながり、心不全パンデミック対策の一助になると考えられます。

1)厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況
2)坂田泰彦ほか. 日内会誌 2020; 109: 186-190
3)日本心エコー図学会 ガイドライン委員会監修. 心臓および肺Point-of-Care超音波検査の実施と活用, 教育に関する手引き. 2023年9月
http://www.jse.gr.jp/contents/guideline/data/guideline_lungs.pdf
1)厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況
2)坂田泰彦ほか. 日内会誌 2020; 109: 186-190
3)日本心エコー図学会 ガイドライン委員会監修. 心臓および肺Point-of-Care超音波検査の実施と活用, 教育に関する手引き. 2023年9月
http://www.jse.gr.jp/contents/guideline/data/guideline_lungs.pdf

※本内容は2023年12月18日より株式会社 日経BPのウェブメディア「日経メディカル」に掲載されたインタビュー記事をもとにしています。
元の記事から一部文言を変更している箇所がございます。

※使用者の経験に基づく記載であり、GEヘルスケア・ジャパン株式会社が仕様値として保証するものではありません。
製造販売:製造販売:GE ヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称:汎用超音波画像診断装置 Vscan Air
医療機器認証番号:303ACBZX00012000
Vscan Air SLの“SL”は上記医療機器の類型名(SLプローブ)です。
GEは、商標ライセンス下で使用されるGeneral Electric Companyの商標です。Vscanは、GE HealthCareの商標です。
写真の携帯端末はVscan Air一式には含まれておりません。適応モバイル端末には仕様上の必須要件があります。詳細は弊社までお問い合わせください。

JB13893JA