クリニックや在宅における
循環器診療にPOCUSを

Vscan Air SLによるFoCUS 

※本内容は2024年4月8日より株式会社メディカルトリビューンのオンライン記事に掲載されたインタビュー記事をもとにしています。元の記事から一部文言を変更している箇所がございます。 

四日市内科ハートクリニック
院長 三原裕嗣先生

POCUS(Point of Care Ultrasound)とは、ケアの現場(point of care)で実施する超音波検査(エコー)を指す。最近では一般病院や診療所の外来診療、在宅医療の場において使用され、迅速かつ適切な診断につながると急速に普及してきている。四日市内科ハートクリニック(三重県四日市市)院長の三原裕嗣氏はエコー専門医であり、POCUSの循環器版ともいえるFocused cardiac ultrasound(FoCUS)診療を実践している。同氏の地域医療への取り組みとポケットエコーによるFoCUS診療の実際を紹介する。

  • 循環器診療には心臓リハビリテーションが必須
  • 「四日市心不全地域連携の会」を設立、心不全診療の質の向上を目指す
  • 患者との絆が深まるポケットエコー
  • Vscan Air SLの特徴と期待する機能
  • Vscan Air SLを使用した印象的な症例
    症例1:息切れで来院した90歳代女性
    症例2:肺高血圧症で通院中のダウン症の40歳代男性
    症例3:大動脈解離に対するBentall術後で通院中のMarfan症候群の70歳代女性
  • 目の前で患者が亡くなる事態を避けるために
  • クリニックや在宅医療でのFoCUS実施で心不全パンデミックの回避を

循環器診療には心臓リハビリテーションが必須 

私は2017年10月に四日市内科ハートクリニックを開業した。当初は救急医療を志望しており、内科系の知識を一通り得ようと考えた。ところが、消化器内科に続いて研修を行った循環器内科で素晴らしい上司と出会い、そのことが循環器診療を続けるモチベーションとなって循環器内科医の道に進んだ。循環器内科の研鑽先として心臓外科手術や心臓リハビリテーション(以下、心リハ)で有名な榊原記念病院を選び、エコーや心リハの大切さを学んだ。その後、出身地である四日市市の地域医療に貢献したい、これまで積み上げてきた経験や知識を地元に還元したいとの思いから同市に戻り、市立四日市病院での勤務を経て当クリニックを開院した。

循環器疾患の患者は、治療のみでは回復しない。リハビリを含め元気に動けるような生活習慣を患者に身に付けてもらうことが大切だ。榊原記念病院で心リハの重要性を経験してきたことから、心リハを行わない循環器診療などありえない、心リハは必須であると身にしみて感じている。しかしながら、急性期病院では緊急性の高い手術や治療などが多く、心リハまで手が回らないのが実情だろう。実際、開業前に市立四日市病院で心リハ部門を発足したが、残念ながら広めるまでには至らなかった。四日市市で心リハを根付かせたいという思いも開業理由の1つといえる。

そこで私は、心リハの裾野を広げることを目的に四日市市を含む三重県北勢医療圏において「北勢心臓リハビリテーション地域連携の会」を立ち上げた。北勢医療圏の心リハ実施施設7病院が連携し、症例の情報共有や専門性を高めるための研修活動などを実施している。

「四日市心不全地域連携の会」を設立、心不全診療の質の向上を目指す 

循環器専門医による在宅医療の充実も、私が開業を志した理由の1つである。循環器領域では専門医が関わることで、患者の苦しむ時間を減らしたり、早期の回復が見込めたりすると考えている。 



在宅医療というと終末期のがん患者のイメージが強いと思われるが、当院では循環器専門医という特性を十分に生かし、循環器疾患に特化した在宅医療を行っている。そのため、当院では在宅患者の約8割を循環器疾患の患者が占めている。なお、四日市市には在宅医療を専門的に行っている大きなクリニックがあり、在宅医療の先進的地域とされている。在宅医療に携わる開業医は、地域別に3つのグループをつくって患者の情報を共有し合うなど連携が盛んだ。在宅の新規患者リストを見ると、心不全例や心不全の合併例が増えていることを実感している。

このように最近では「心不全パンデミック」といわれるほど心不全患者、特に75歳以上の高齢患者が増加しており、医療の逼迫が懸念されている。四日市市でも冬場の心不全入院が増えており、病床の圧迫に拍車をかけている。そこで循環器病床を確保し救急医療を止めないために、私が発起人の一人となって「四日市心不全地域連携の会」を設立した。急性期病院、循環器専門の開業医、循環器が専門でない開業医の3者が協力し、高齢心不全患者の早期発見・早期治療に努めて入院を減らし、かかりつけ医(循環器非専門開業医)にも参加してもらうことで介護関係者とも連携を密にして、四日市市の心不全診療の質を向上させようという取り組みである。

この取り組みで独自のものは、循環器専門開業医である。循環器専門医が在籍するクリニックを「心不全相談診療所」と銘打ち、急性期病院とともに循環器非専門開業医の相談に乗る体制を構築することで、心不全診療に携わりやすい環境を整えた。現在、四日市心不全地域連携の会には循環器非専門クリニックが約70施設、循環器専門クリニックが13施設、急性期病院が4施設参加している。この取り組みは2023年12月にスタートしたばかりだが、連携して対応する症例が増えてきており、今後心不全地域連携パスとしての認知が進んでいくことが期待される。

患者との絆が深まるポケットエコー 

心不全や心筋梗塞など循環器疾患の診療・検査においては心臓超音波(心エコー)が有用であり、個人的に心エコーは循環器疾患患者のほぼ全例に必要な検査だと考える。心エコーは心臓の構造や機能の評価に優れ、刻一刻と変化する病態を放射線被曝の懸念なく確認できる点から、私はエコーというデバイスに大きな魅力を感じている。

臨床においてケアの現場(point of care)で行うエコーはPOCUSと称され、病態ごとに決められたプロトコルに則って行うなど簡素化が図られており、装置によってはあらかじめ臓器別にプリセットが設定されているのでエコーの専門家でなくても施行しやすい。また、心臓に特化したFoCUSについても、5つの基本断面を観察することで心臓周辺の水分貯留、心臓の大きさや拍動を確認できるため、普及しつつある。循環器診療においては、身体診察の流れの中で視診、触診、聴診に加えてFoCUSを行うことは患者に大きな恩恵をもたらすと考えており、手軽に持ち運びができすぐに使えるポケットエコーの存在意義は大きい。

私は、循環器診療を始めた2005年ごろからポータブル型エコーを活用しており、必要と感じたとき即座にエコーを実施できる環境で診療に従事してきた。2010年から使用しているポケットエコーは、ポケットに入るほどの小さいサイズにもかかわらず、高性能の据え置き型エコーと遜色のない非常に鮮明な画像が撮影できる。むしろ検査室の順番待ちなどでなかなかエコーを実施できない状況に陥るより、いつでもすぐに施行できるためポケットエコーの方が患者の役に立つ場合も多い。

ポケットエコーは持ち運びがしやすく起動時間も短いため、一般外来や救急外来、病棟、訪問診療先などあらゆる場面で活用できる。加えて、“エコープローブをあてる”という行為自体が患者との良好なコミュニケーションとなり安心感をもたらす。医療者と患者の絆を深めるのにポケットエコーは一役買っているといえるだろう。また、エコーの画像を見せながら説明することで、理解度も深まる。このようにポケットエコーは患者や家族との絆を深め、信頼関係を築ける素晴らしいデバイスであると考えている。

Vscan Air SLの特徴と期待する機能 

昨年、GEヘルスケア・ジャパンが新たに発売したVscan Air SL(写真)は、1本のプローブの両端に深部用のセクタ型と浅部用のリニア型を備えたデュアルプローブが搭載されており、増加している心不全を含む循環器疾患にも対応可能な機種となっている。また、新たにパルスドプラとMモードが搭載され、血流速度や壁運動の可視化ができるようになった。

Vscan Air SL

特に、インターネット回線を通して画像が共有できる点は、エコーの教育・指導および啓発・普及の面で大いに役立つと感じている。Vscan Air SLは遠隔地でも専門医の指導が受けられやすいため、FoCUS初学者が安心してエコーに取り組める環境が整った。

Vscan Air SLを使用した印象的な症例 

このようにVscan Air SLを当院でも導入している。実際に使用した症例を紹介する。

症例1:息切れで来院した90歳代女性

身体所見で頸静脈怒張、下腿浮腫、Ⅲ音を聴取し、心不全増悪を疑いPOCUSを実施した。左室容積は正常範囲で、左室収縮能は保たれていた。左心房拡大があり、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)による両心不全と診断した。パルスドプラ法による左室流入路波形で、E/A 1.4と偽正常化パターンを呈し、図1に示すように拡張中期にL波40cm/s(>20cm/s、矢印)が認められ、左房圧上昇が示唆された。下大静脈は28.5mmと拡張し、呼吸性変動低下(図2)、多量の右胸水を認めた(図3、*)。

症例2:肺高血圧症で通院中のダウン症の
40歳代男性


労作時息切れ増悪、下腿浮腫を主訴に来院したダウン症の患者にFoCUSを実施。傍胸骨短軸像で拡張期および収縮期の心室中隔扁平化を認め、肺高血圧の増悪が疑われた(図4、矢印)。心窩部アプローチによる下大静脈長軸像および下大静脈短軸像を撮影したところ、下大静脈は長軸像で21mmと拡大し、呼吸性変動は消失した(図5-A)。また、短軸像では下大静脈は正円で、右心房圧上昇が示唆された(図5- B)。

症例3:大動脈解離に対するBentall術後で通院中のMarfan症候群の70歳代女性 

倦怠感と弱い背部痛を訴えたMarfan症候群の症例に、腹部大動脈の評価を行った。心窩部アプローチによる胸部下行大動脈~腹部大動脈長軸像の断層像および同カラードプラ像で状態を確認。胸部下行大動脈から腹部大動脈内にかけてフラップが認められ、大動脈解離残存が疑われた(図6-A)。偽腔に順行性血流が見られ、偽腔開存の所見が認められた(図6- B)。なお、胸部下行大動脈~腹部大動脈短軸像では、横隔膜レベルにおいて偽腔が開存(矢印)しているが、腎動脈分岐レベルでは解離腔が消失していた(図7)。そのため、偽腔開存型の大動脈解離所見を示していたものの、以前と比べ残存解離腔の範囲に変化がなかったことから、経過観察とした。ただし、症例によっては動脈を正確に評価するためのCTなど、精密検査が必要であることに留意が必要である。

目の前で患者が亡くなる事態を避けるために

FoCUSは誰でもできるよう簡素化されているため、身構えず気軽にエコー機器を手に取っていただきたい。場数を踏むことで慣れ親しむことができると思われる。「心臓および肺Point-of-Care超音波検査の実施と活用、教育に関する手引き」(日本心エコー図学会ガイドライン委員会監修)も刊行されているので参照してほしい。手技に不安があれば、エコーのトレーニングコースの活用もお薦めだ。そして、診断するというプロセスを楽しんでもらえればと考える。また、専門領域でエコーを使い慣れている循環器非専門医には、目的部位を観察する“ついで”でいいので、心臓にもエコーをあててみていただきたい。 



一方、目の前で患者が急変した場合、エコーに詳しくなくても循環器専門医であればFoCUSを行うことで早期診断と救命の機会を広げられる。もちろんすぐに検査室での精密検査を施行できる状況であればより良いのだが、直ちに検査できない場面もありうる。私もそうであるが、循環器専門医は目の前で患者が亡くなる事態は絶対に避けたいと考えているはずだ。救命のチャンスを逃さないよう、ぜひFoCUSを行ってほしい。 

クリニックや在宅医療でのFoCUS実施で心不全パンデミックの回避を

クリニックや在宅医療におけるFoCUSの実施は心不全増悪の早期発見・早期治療につながり、懸念されている心不全パンデミックの回避にもつながると考える。クリニックや在宅医療では、エコーを当てて「何かおかしい」と気付き、精密検査のオーダーや専門医につなぐことができれば、FoCUSの役割は十分果たしている。

そう遠くない将来、循環器専門・非専門にかかわらず、開業医は常にポケットエコーを携帯し、活用するのが当たり前となる日がくるだろう。 

 
References
※使用者の経験に基づく記載であり、GEヘルスケア・ジャパン株式会社が仕様値として保証するものではありません。
製造販売:製造販売:GE ヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称:汎用超音波画像診断装置 Vscan Air
医療機器認証番号:303ACBZX00012000
Vscan Air SLの“SL”は上記医療機器の類型名(SLプローブ)です。
GEは、商標ライセンス下で使用されるGeneral Electric Companyの商標です。Vscanは、GE HealthCareの商標です。
写真の携帯端末はVscan Air一式には含まれておりません。適応モバイル端末には仕様上の必須要件があります。
詳細は弊社までお問い合わせください。 

JB12369JA

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