こんな時どうする!?ALL-FREEなAIR™ Coilsにお任せ!
~臨床に役立つ活用事例のご紹介~


滋賀医科大学医学部附属病院 放射線部
主任診療放射線技師 吉越 慎 様

 

滋賀医科大学医学部附属病院は、診療放射線技師37名が勤務しており、その内、MRI検査室では装置4台に対して技師4名の配置で日々検査をこなしている。
以前の装置ラインナップは、Signa HDxt 1.5T、Signa HDxt 3.0T、Optima MR450w、Discovery MR750wの4台体制であったが、2022年の装置更新を機にSigna HDxtの2台がSIGNA™ ArtistとSIGNA™ Architectへと入れ替わり、残る2台もバージョンアップを行ったことで4台全てのソフトウェアバージョンがMR29.1に統一された。ディープラーニング画像再構成であるAIR™ Recon DLが全装置で使用可能になったことに加え、SIGNA™ ArtistとSIGNA™ Architectには新コイルである「AIR™ Coils」シリーズが導入された。

本稿では、これまで経験したAIR™ Coilsにおける様々な臨床的活用方法について紹介する。

吉越 慎 技師

 

AIR™ Coilsとは?

 

GE HealthCareからリリースされているAIR™ Coilsは、受信コイルとは思えないようなシンプルで洗練された外観をしており、軽量かつ重さが均一に分散されているため、患者へ安心感と検査負担の軽減をもたらし、従来の重たく硬いコイルを載せるというセッティング時の罪悪感を軽減する。
当院ではAIR™ Anterior Array Coil(以下AIR™ Coil)と、AIR™ Multi-Purpose Coil(以下MP Coil)が導入されており、目的や被写体サイズに合わせた柔軟な選択が可能となっている。AIR™ Coilは広範囲の全腹部を覆えるサイズで(図1)、MP CoilはAIR™ Coilよりもコンパクトで手指・足趾や小児検査に用いやすいサイズとなっている(図2)。特筆すべきはコイル自体の柔軟性で、ブランケットをかけるかのように身体に密着させたセッティングが行うことができ、折り畳むように目的部位を挟んで使用することも可能である。

図1 AIR™ Coilセッティング例

図2 MP Coilセッティング例

 

AIR™ Coilsの活用事例:ベーシック編

 

ここでは、全身あらゆる部位において、様々な患者状態に合わせて用いたAIR™ Coilsの活用事例を紹介する。

 

 

Case1 側臥位の腰椎検査
60代の男性。椎間板ヘルニアにて経過観察のため腰椎MRI検査を実施。検査当日痛みが強く、仰臥位困難なため側臥位にて検査施行(図3)。そこで、AIR™ Coilの向きを変えて使用し腰部全体にコイルをフィットさせ覆うことが出来た結果、通常の検査と遜色ない画像を取得でき、診断に貢献できた一例。

 


図3 側臥位の腰椎検査におけるAIR™ Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case2 妊婦の子宮胎盤検査
30代の妊婦。重複子宮の疑いにて経腟分娩可能か評価する目的にてMRI検査を実施。
検査時35週で推定胎児体重が2384gであり、本人より仰臥位困難の訴えがあったため、側臥位でAIR™ Coilの向きを変えて腹部全体にコイルを覆いポジショニングを行った。側臥位にすることで患者さんの負担も少なくセッティングもスムーズで検査が施行でき、出産方法の決定に貢献できた一例(図4)。

 


図4 妊婦の子宮胎盤検査におけるAIR™ Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case3 新生児の脊椎検査
生後7日の新生児。出生前MRI検査時に脊椎異常を指摘されており、出生後に脊椎MRI検査を実施。
Spineコイルや従来からあるGEM Flex Coilを検討したが、対象が小さい事やコイルの硬さ、また体動や固定が懸念された。MP Coil自体クッション性があるので、MP Coilの上に仰臥位のポジショニングで、固定も問題なく検査が施行できた(図5)。Th10~L1は分離不能で急峻な後湾変形を認め、脊柱管はこの上下で狭小化。脊髄空洞症や脂肪腫は認めず分節性脊椎形成異常症と診断された一例。

 


図5 新生児の脊椎検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case4  新生児の門脈肝静脈シャント非造影検査
生後6か月の乳児。超音波検査時にて体循環門脈シャントを指摘されており、複数シャントの有無、血管腫の有無についてMRI検査を実施。ポジショニング時にGEM Flex Coilの使用を検討したが、体動や患児の固定及びコイルの固定が懸念されたため、MP Coil を使用し検査を施行。
AIR™ Coilsに使用シーケンスの制限はないため、Inhance Inflow IRで検査を実施。門脈P3と左肝静脈間にシャント形成を認め、その他シャント形成は認められなかった(図6)。
結果として患児の体型に合わせてコイルをフィットさせることができ、ポジショニングも簡便かつスムーズに行うことができた結果、追加鎮静もなく迅速な検査実施に貢献できた一例。

 


図6 新生児の門脈肝静脈シャント非造影検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case5 足部腫瘤造影検査
20代の男性。5年ほど前に海外で足部の手術を行っており、同足部の腫脹と痛みを訴えMRI検査を実施。足底部の強い痛みがあり、歩行困難かつ圧着困難のため、足部の荷重を和らげた体位にてMP Coilを挟む様にポジショニングを行い検査を施行。
右第1,2中足骨間に腫瘤を認め、周囲筋肉や腱を押し広げ、骨の間を通ってダンベル状に発育しており、第1中足骨に一部浸潤あり、境界明瞭で周囲骨の信号変化乏しい。肉腫やデスモイド、孤立性線維性腫瘍(SFT)などが鑑別に挙げられた(図7)。
患者さんの痛みが強くポジショニングが限定される中、負担が少ない体位でコイルを挟むだけで簡単に検査が行うことができ診断に貢献できた一例。

 


図7 足部腫瘤造影検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case6 爪下腫瘤検査
10代の女性。半年前から第1足趾に痛みがあり足趾の爪甲部下に結節の出現と爪甲の変形がみられたためMRI検査を実施。結節サイズが8mmほどと小さかったので、MP Coilで足趾を挟むようにポジショニングを行った。
母趾末節骨足背内足部から足尖足背方向に突出構造あり、内部の骨髄様構造が末節骨構造と連続、軟骨帽様構造を認めることから、骨軟骨腫、外骨腫疑いとなった(図8)。
画像の様にコイルで挟むだけで足趾に合わせたFOVでの撮像が可能で、連続する骨髄の描出が出来た一例。

 


図8 爪下腫瘤検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

AIR™ Coilsの活用事例:アドバンス編

 

これまで王道(?)な使用例を紹介してきたが、検査時に使用コイルとポジショニングに悩んで、「藁にもすがる気持ち」でAIR™ Coilsを使用し検査を実施した症例を紹介する。

 

 

Case7 新生児の頭部検査
生後25日の新生児。重症新生児仮死後にて頭部の精査目的でMRI検査の依頼。
気切切開後、人工呼吸器管理中の患児でバギングにてMRI検査室に来られ、Head Coilでは気切部の干渉が考えられた。ポジショニングや使用するコイルを思案し、頭部にMP Coilをセッティングすることで検査を実施し(図9)、気切部に干渉する事なく通常の頭部検査と遜色ない画像を取得でき診断に貢献できた一例。

 


図9 新生児の頭部検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case8 強円背患者の頭部検査
50代の男性。脳器質性疾患、脳動脈瘤疑いのためMRI検査の依頼。
CT位置決め画像の事前情報から、円背が強く筋拘縮もある方でHead Coilの使用が困難であり、かつ検査施行自体が懸念された(図10)。そこで、側臥位かつ頭部にMP Coilをセットして検査施行し、左IC-PC分岐部に2mmの嚢状動脈瘤を認め、通常の頭部検査と遜色ない画像を取得でき診断に貢献できた一例。

 


図10 強円背患者の頭部検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

 

Case9 成人の上肢全長検査

70代の男性。筋炎の疑いにて上腕から前腕の上肢全長MRI検査の依頼。当院では今まで、上腕や前腕の検査時の使用コイルに頭を悩ませており、体幹部用コイルを目的上肢にずらしたセッティングで検査を行っていた。しかし今回検査範囲が上肢全長と広範囲であり、全て覆うことが出来ず検査途中にてコイルの再セッティングが必要であると思われた。

AIR™ Coilsの中ではMP Coil Largeの長軸方向が最も感度長が長いので(図11)、上腕、前腕に装着すると上肢全体を覆うことができ、検査途中にてコイルの移動なく一連の流れで全上肢の撮像が取得でき、検査時間の短縮かつ診断に貢献出来た一例(図12)。

図11 AIR™ CoilとMP Coil Largeの長軸方向の感度領域比較

 


図12 成人の上肢全長検査におけるMP Coilのセッティング例と臨床画像

 

最後に

 

AIR™ Coilsシリーズを使用することで、大きなFOVから指先のような小さなFOVまであらゆる領域で簡単に高画質な画像が得られる。AIR™ Coilsシリーズは柔らかく、軽いことが一番の特長であり、取り扱う技師にも優しいコイルという認識であった。しかし恩恵はそれだけにとどまらず、使用コイルやポジショニングに難渋する場面においても、患者さんの楽な姿勢でAIR™ Coilsを目的部位に「掛けるだけ」「挟むだけ」のフレキシブルな使用方法が可能で、簡単かつ検査時間の短縮になり、スループットの向上と部位専用コイルの存在感を薄く感じさせる。

また、鎮静下で検査を行う事の多い小児患者において、鎮静剤は可能な限り少ない量で行うことが推奨されている。検査準備としてのポジショニング、セッティングに時間がかかることは鎮静剤の投与量にも影響する。熟練度の低い技師でも簡単にスピーディーにセッティングが出来るため、大きなメリットと感じており、実際に「AIR™ Coilsが上手に巻けたら勝ち!」の場面をたくさん目の当たりにし、体感したことで手放せないアイテムとなっている。


最後のつぶやき・・・
凹凸がないのでコイルの清拭が楽ちん!

 


滋賀医科大学医学部附属病院 MRI検査室スタッフの皆様

 

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