Discovery MR750w MR29.1の臨床活用について


青森県立中央病院 放射線部
佐藤 兼也 先生
  • 青森県立中央病院様では、2021年5月に既存のDiscovery MR750w 3.0T装置のバージョンがMR29.1へとアップグレードいただきました。最新バージョンによる新規アプリケーションを効果的に検査にご活用いただいています。本稿ではAIR™ Recon DLについて、ご施設で詳細に検討いただいたファントムスタディの結果ならびに臨床活用のご経験についてご執筆いただきました。

はじめに

当院MRI装置は2014年に1台増設および更新でOptima MR450W(1.5T)が1台とDiscovery MR750W(3.0T)が2台の3台体制で運用している。種々のバージョンアップを経てこの程、Discovery MR750Wの1台がDV26からMR29.1(Ver.29.1)にバージョンアップされた。MR29.1ではMotion sensitized Driven Equilibrium :MSDEやSnapshot SSFSE等様々な機能が拡張され臨床に広く活用されている。最も注目すべき機能はAI技術の一つでもある畳み込みニューラルネットワークを応用したDeep learningによる画質向上であろう。GE社ではこれらをAIR™ IQ Editionとして3.0TではDiscovery MR750W, SIGNA™ Pioneer, SIGNA™ Architectが対応機種となっている。これら注目すべき撮像法と臨床活用例を中心に述べる。

 


青森県立中央病院様 外観

AIR™ Recon

GE社のネーミングの特徴である「AIR™」、MR29.1ではほぼすべての画像種にこのAIR™ Reconが自動的に適用されるようになった。本法は、Pre scan中にノイズキャリブレーションデータを取得し、ノイズレベルに応じて受信チャンネルの重みづけを行い、バックグランドのノイズを除去するというものである(図1)。

 

 

受信チャンネルの重みづけは感度の均一化にも一役買い、3T特有の頭部T1強調系の画像において有効に働いている。従来までの画像感度補正はPhased-array uniformity enhancement : PUREやsurface coil intensity correction : SCIC等により感度補正を行っていたが1)、AIR™ Reconによる感度均一化は従来の感度補正技術より効果が期待できる(図2)。

 

AIR™ Recon DLとSNR、CNR、尖鋭度

AIR™ Recon DLは従来のk空間フィルタを使用せず、収集したraw data 全体に対してアルゴリズムを適用するフィルタレス型のディープラーニングであるとされている。そのメリットとして、畳み込みニューラルネットワーク(Convolusional Neural Network : CNN) と呼ばれるディープラーニングネットワークを用いることで、画像再構成時のアポダイゼーションk空間フィルタを使用していない。これにより高周波成分のraw dataを損なわないことにより効果的に画像に反映させることを達成させている2)
ネットワーク学習には、低SNR・低空間分解能・トランケーションアーチファクトの多いデータと、高SNR・高空間分解能・トランケーションアーチファクトの少ないデータを用いている。結果として画像ノイズだけでなく トランケーションアーチファクトも減少させながら アポダイゼーションフィルタの未使用により高周波成分データを維持した尖鋭度の高い画像が得られることにつながる。さらにDICOM画像でのアルゴリズムを使用していないことなどから解剖学的部位の制限はない3)。尚、MR29.1から、拡散強調画像へのAIR™ Recon DL技術が対応可能となりさらなる可能性が広がりつつある。
撮像時間やボクセルサイズとSNRはそれぞれトレードオフの関係にある。我々MRオペレーターは臨床的価値のある画像を収集するために現実的な撮像時間(体動や検査予約枠または対象疾患)の中で最大限(時には最小限)必要なSNR、CNRをゴールとして各種パラメータを調整しながら検査を進めている。TR、TEはもとより、Echo Train Length:ETLやParallel Imagingファクタ、これら各種パラメータ調整にも当然のごとくトレードオフが存在するのは周知のごとくである。近年では圧縮センシング技術でトレードオフの解決策の一つとされつつある4)。さらにAIR™ Recon DLは上記トレードオフを一掃するインパクトがある。我々は、簡易的ではあるがファントムにてそれぞれについて評価を行った。

撮像条件はDQEファントムをFast Spin Echo法TR/TE = 5000ms/95msEf, 面内ピクセルサイズ= 0.43mm, ETL=14(Parallel Imaging / Compressed sensing=Off)としてスライス厚のみ10mm, 7mm, 5mm, 3mm, 2mm, 1mm, 0.6mmと変化させて同一関心領域法にてAIR™ Recon DL On/OffでSNRを測定し、SNR上昇率を比較した。SNR測定は同一関心領域法で求め、以下の計算法で上昇率を求めた。

 

 

その結果、スライス厚が薄くなる(ボクセルサイズが小さくなる)につれSNR上昇率が上昇した(図3)。十分なSNRがある10mmでは10%程度であるの対して5mmで40%、1mmまで薄くなると100%のSNRの上昇率を認めた。AIR™ Recon DLには、「Low」「Medium」「High」の3段階の設定が可能である。それぞれについて93-402S型ファントムのピンパターンとスリットを使用して尖鋭性について視覚評価を行った。ピクセルサイズは0.32mmである。その結果、いずれのレベルにおいても0.5mmのピンパターンは評価可能になり、「High」がもっとも視認性が優れていた(図4)。

 

 

また同一ファントムにおいて空中信号法でCNR測定、差分法でSNR測定も行ったところ、CNR/SNRともに強度が強くなるにつれて上昇することが判明した。

臨床例

SNRとボクセルサイズ(スライス厚)SNRとスライス厚は比例関係にありスライス厚が薄くなるほどSNRは低下する。撮像時間を固定とするならば画質向上のために我々はしばしば感度補正フィルタ(PUREやSCIC)を使用し画質向上を行ってきた。さらに、AIR™ Recon DLを使用することにより従来の感度補正技術に加えてSNR向上できることにより短時間で高画質な画像を取得することが可能となった。
頭部領域では、脳や眼窩領域の従来より薄いスライス厚を臨床上現実的な撮像時間で、下垂体領域では従来より高SNRで収集することが可能となり(図5)、整形領域ではオフセンターの高SNR・高分解能画像に加え、低SNRのDWIにおいてもSNRを向上させることで診断能の向上に寄与していると考えられる(図6中段)。また腹部の膵管領域においても高空間分解能に撮像することが可能となった。さらにBWを広帯域化することでケミカルシフトの低減と高空間分解能かつ高SNR画像の両立が期待できる(図6下段)。

 

 

骨盤部領域においても、短時間で撮像することにより呼吸性Artifactの低減と低下するSNRを持ち上げることによりCubeに勝くらいの画質で撮像することが可能であった(図7上段)。前立腺DWIにおいては、cDWI画像においても元になるDWI画質が向上することによる効果が明瞭となった(図7中、下段)。

 

 

まとめ

当院MR装置DV26からDV29.1へのバージョンアップでは様々なアプリケーションの追加があったが、AIR™ Recon DLの臨床活用について基礎検討とそれに基づいた撮像結果について述べた。当該撮像技術は3D以外のほぼすべての撮像Sequenceに適用することが可能で、従来から「もう少しSNRが欲しい」とか「3Dに迫る空間分解能とSNRが欲しい」というある意味「攻める」撮像法として位置づけることが可能となった。今後、ケミカルシフト克服やADC値の捉え方など様々な検証を進める価値があると考える。

 

 

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

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