全身用半導体SPECT/CTの日常の運用と装置間での個体差
~3施設におけるDaily QCテストの結果比較とアンケート調査結果~


埼玉医科大学病院
中央放射線部 高橋 将史 先生

はじめに

Discovery NM/CT 670 CZTは、初めて実用化された全身撮像対応の半導体検出器搭載SPECT/CTである(図1)。装置の外観は従来のSPECT/CTと変わらないが、コリメータと保護カバー取り外すと、1辺4cm四方のモジュールが130個配置されて1台の平面検出器が構成されていることが分かる(図2)。高いエネルギー分解能によりCNRが向上し、収集時間の短縮や投与量の低減などのメリットがあることがこれまでに報告されている。

当院においては国内第1号機となる本装置を2017年7月に導入し、これまでも性能評価や収集時間の短縮などを検証し報告を行ってきた。しかしながら半導体検出器の特性は未だ知られていない部分もあり、比較的初期に国内で本装置が導入された3施設においてDaily QCの結果を集計し、装置個体間差の比較検討を行った。またアンケートを実施し、各施設における装置を使用してみての感想や要望、運用について調査を行ったので報告する。



図1 装置外観

図2 検出器モジュール

対象施設

  • 埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町) 2017年7月導入
  • 旭川医科大学病院(北海道旭川市) 2017年12月導入
  • 筑波大学病院(茨城県つくば市) 2018年5月導入

調査方法

まず、各施設において日常点検として行っているDaily QCで得られる結果のうち、均一性とエネルギー特性(ピークとFWHM)を集計した。本装置においてはコバルト面線源を別途購入し、毎日使用前に簡単なQCテストを行うことが推奨されている(図3)。Daily QCツールを実行すると、1分間のBGテストの後、コバルト面線源を装着し16,250kcountsまで収集を行う。最後に結果画面が表示され、均一性、エネルギーピークとFWHM、bad pixelの状態などが表示される(図4)。今回集計を行った3施設ともこのツールを使用しているため、収集条件としては同一である。使用したコバルト面線源も同一の型式(Bench/mark Cobalt-57 Flood Source)である。集計期間は各施設における装置導入日より2019年3月までとした。なおデータ損失により一部欠落している箇所があるためご了承頂きたい。
次に、各施設における運用などを調査するためにアンケートを実施した。項目は以下の通りである。

  • 運用(CZT以外の保有機と装置の使い分け)
  • リストモードや画質補正など各種機能の使用状況
  • CZTにどのようなメリットを強く感じているか
  • 装置に対する課題や要望、コメント


図3 コバルト面線源を用いたDaily QC

図4 Daily QC結果表示

Daily QC集計の結果と考察

均一性の結果を図5に示す。上側3つ並んだグラフが施設ごとの結果で、下のグラフが全て一緒にしたものである。縦軸が均一性、横軸が時系列で、メーカーの許容値に設定されている6.5%以内には十分に収まっているが、各施設とも時間の経過と共に少しずつ均一性が低下していく傾向が認められた。このため結果が許容値以内であっても、1~2か月に1回程度は補正をかけることが推奨される。補正にはPeriodic QCというツールが用意されており、ユーザーでもコバルト面線源さえあれば手順に従って簡単に行うことができる。コバルト57の半減期は271.8日であり、減衰が大きくなるといずれのQCも所要時間が長くなるため、370MBq規格であれば1年~1年半程度のスパンで更新することを推奨する。ただし注意点としては、購入直後のコバルト面線源の場合、コバルト56とコバルト58のガンマ線が混入している可能性が高く、これが補正に影響を及ぼす恐れがあるため、サービス担当者と相談しながら行うと良い。

CZT検出器は湿度の変化に弱いとされているが、今回の結果を見る限りでは明らかな季節による値の変動は見られなかった。施設Aにて導入時よりDetector2のみ均一性不良が認められたが、ある地点を境に改善され、空調設備を改良し湿度が安定したことが理由ではないかと推察している。このことから、空調管理の重要性が示唆される。

均一性の結果を集計し箱ひげ図で示したものが図6である。使用しているコバルト面線源が、規格は同じだが同一の個体ではないため厳密な比較は出来ないが、中央値は施設間で大きな差は認められず、有意差も認められなかった。ばらつきに関してはコバルト面線源の配置などが影響している可能性があり、QCの結果に与える影響について今後詳細な検証が必要と考えている。



図5 均一性(時系列)


図6 均一性(集計結果)


図7はエネルギー特性のうち、ピークの結果を示したものである。図5と同様に、上側3つ並んだグラフが施設ごとの結果で、下のグラフが全て一緒にしたものである。縦軸がピークのエネルギーで横軸が時系列である。こちらは均一性と異なり経時的な変化は認められなかった。箱ひげ図(図8)で見ても値、ばらつき共に顕著な差は確認されなかった。



図7 エネルギー特性・Peak(時系列)


図8 エネルギー特性・Peak(集計結果)

図9は同じくエネルギー特性のFWHMである。こちらもピークと同様に経時的な変化は認められず、箱ひげ図(図10)でも、ピークよりはややばらつきが見られるが、顕著な差ではなかった。

エネルギー特性についてまとめると、ピークとFWHMいずれにおいても、均一性と異なり経時的な変化は認められず、またメーカー許容値を外れることもなかった。施設間差や検出器間の差もほとんど認められず、安定していると言えよう。



図9 エネルギー特性・FWHM(時系列)


図10 エネルギー特性・FWHM(集計結果)

アンケート集計の結果と考察

ここからは、アンケートの集計結果について報告したい。まずは運用についてで、各施設のCZT以外の保有機を表1に示す。装置を検査の目的や疾患によって使い分けているか、検査の種類によって使い分けているかを問う質問では、3施設とも検査の種類によって使い分けているとの回答であった。検査種ごとに装置を固定したほうが読影がしやすい、予約が組みやすいといった理由があると思われる。

どのような検査をCZTで行っているかの質問では、表2のような回答が得られた。施設Aについては様々な検査を行っていたが、他の2施設はTcを使用した検査が中心であった。これはWEHRコリメータのペネトレーションにより、中エネルギー核種において画質低下を招くことが主な原因と思われた。当院においても中エネルギー領域におけるペネトレーションは装置導入当初からの懸念事項であり、新しいコリメータの開発を要望してきた。しかし半導体という検出器の特性上、解決すべき課題も多かったためか、2年以上の歳月をかけてMEHRSという名称で実用化された。使用核種の問題は、このMEHRSコリメータを導入することで解決されるであろう。ちなみに当院には2019年10月にプロトタイプが導入され、基礎的な検証を行った。結果を2021年9月のGEスマートメールにて、「半導体SPECT用 中エネルギーコリメータMEHRSの使用経験」として上梓しているので興味のある方はご覧いただければ幸いである。

画質補正機能や付加機能をどの程度使用しているかとの質問では、表3のような回答が得られ、特に散乱補正が3施設とも行われていないのが印象的であった。エネルギー分解能が高く散乱成分が従来より少ないことも理由の1つと考えられるが、テール効果の影響によりDEWで行う場合には過補正に注意が必要であることが最大の理由と思われる。CZTにおける散乱補正の手法については、その後学会等において検証結果の報告もされており、核種ごとに最適なパラメータのエビデンスが得られれば今後行われていくものと思われた。

CZTを使用することにどのようなメリットを強く感じているかを問う質問では、リストモード収集が可能であることや、高いCNRにより収集時間が短縮できること、ブレインリーチが短くSPECT回転半径を小さくできることが回答の上位にランクされた。リストモード収集は半導体検出器独特の機能というわけではないが、現在市販されているガンマカメラでは半導体装置にしかリストモード収集機能は搭載されていない。とても有益な機能であるため、今後半導体以外の装置においても搭載されることを期待したい。

装置に対する課題や要望、コメントを自由記述形式で回答してもらったところ、価格が高い、正確な散乱線補正法の開発、ピクセルの補間による画質への影響、リストモードの改良など、多くの回答が得られた。こうした課題や要望はユーザーの努力で解決できるものもあるが、ここで得られた様々な意見はメーカーにフィードバックしたので、今後の開発・改良につなげて頂きたい。


表1 CZT以外の保有機
表2 CZTで行っている検査
表3 画質補正機能・付加機能の使用状況

終わりに

全身用半導体SPECT/CT装置を使用している3施設においてDaily QCの集計とアンケート調査を行い、性能や運用について比較を行った。

性能面では施設間で大きな差は認められず、また運用については各施設の考えや特色がよく表れていたと思われる。今回、装置導入より比較的初期の段階における集計調査を行ったが、今後より長い期間における傾向を調査できれば半導体の特性についてさらに理解が深まるものと考えている。また今回は集計対象としなかったが、使用経験上bad pixelの許容値オーバーを多数経験しており、これについても詳細な検証を行っていければと思っている。そして現在コロナウイルスの影響で中断してしまっているが、Tcを用いたファントム実験による性能比較も計画している。

なお、今回の報告内容は調査を行った時点での結果・回答であり、その後各施設において運用などが変更となっている可能性もあることをご了承いただきたい。

国内においても少しずつではあるが普及が始まっており、2021年末の時点で後継機種の870CZTも含め6台が稼動しているとのことである。今後導入を計画している施設においても今回の報告が装置選定の参考になれば幸いである。

謝辞

今回検討を行うにあたりデータ提供にご協力いただいた、旭川医科大学病院と筑波大学病院の核医学担当技師の方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

※本研究の要旨は第41回日本核医学技術学会総会学術大会(2021年11月、名古屋)にて発表した。

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

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