Revolution™ Frontierを用いたBAE術前 全肺野4D撮影の有用性


千葉大学医学部附属病院
肺高血圧症センター 杉浦 寿彦 先生

施設紹介

 

当院の呼吸器内科では1969年の講座開設当初より肺高血圧症をはじめとする肺循環障害に対する臨床及び研究を行っている。
とくに肺循環障害に対するCTを中心とした画像診断、および慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する肺動脈バルーン形成術(BPA)や肺動静脈瘻に対する経カテーテル的コイル塞栓術、喀血に対する気管支動脈塞栓術などの肺循環障害に対するIVRも呼吸器内科が中心となって施行している。

CT検査は短時間で空間分解能の高い血流画像を取得することが可能であり、肺循環障害に関わる心臓及び肺血管の画像診断に大きな役割を果たしている。当院では4台のGEヘルスケア社製CTを有しており、中でも64列CTであるRevolution Frontierの特長の一つにシャトル撮影がある。シャトル撮影とはテーブルを連続的に往復させながら撮影することで、一回の造影剤検査において最大31.25cmもの範囲の4D画像を得ることが出来る撮影法である。

本稿ではこの撮影法が有用であった症例を提示する。

杉浦 寿彦 先生

 

臨床背景

 

喀血に対する治療法の1つにカテーテルによる気管支動脈塞栓術(Brachial arterial embolization: BAE)がある。気管支動脈以外に内胸動脈・肋間動脈・外側胸動脈・下横隔動脈などの胸郭周囲の体循環系動脈も責任血管になり得る。また喀血の責任血管の特徴として、血管の異常な拡張蛇行や動脈瘤、肺動脈の仮性瘤といった形態的なものに加えて、体循環系動脈と肺動脈のシャント(BA-PAシャント)の存在がある。BAE施行前に、特に気管支動脈などの血管起始位置や血管形態を知る手段として造影CTは非常に有用で必須の検査である。ただ通常の造影CTではBA-PAシャントの検出は撮影タイミングによってはうまく描出できないことが多かった。

そのため我々はワイドカバレッジCTを用いたVolume CTによるダイナミックスタディー(4Dスタディー)でBA-PAシャントの検出を行ってきた。ただこの手法では16cmの範囲でしか撮影が出来ず、BA-PAシャントの検出はできるものの、肺全体の血管構造をみることができない。そのためこの検査に通常の造影CTを追加する必要があり、その結果被曝量の増大や造影剤使用量が増加してしまう欠点があった。

シャトル撮影は上記の課題を解決し、被ばく・造影剤量を抑えつつ1回の検査でBAE術前に必要な情報を得ることが出来る撮影法である。

 

症例紹介

 

患者情報
症例:60歳代 女性
主訴:半年以上断続的に継続する喀血
既往症:ノカルジア症
現病歴:
気管支拡張症にて当院で経過観察をされていた。1年ほど前より血痰が出現。その後徐々に血痰の頻度が増加し、さらに半年前から1回50cc程度の喀血も併発するようになったため、喀血専門外来を受診した。
それまで一度も造影CTを撮影されていなかったため、喀血原因精査のために気管支動脈含めた胸郭周囲動脈の構造精査および肺動脈とのシャント血流の有無をみるためにシャトルCTを撮影することとした。

 

撮影条件
造影前に撮影した単純CT画像より、撮影範囲の確認と肺動脈(PA)と大動脈(Ao)における造影剤の到達を同時にモニタリングできる断面の確認を行う。その後Test Injectionによって得られたTime Density Curveから PAピーク時間とAoピーク時間を算出し、スキャン時間を算出する(図1)。これにより喀血の原因血管を逃さず撮影しつつ、息止め時間の短縮、被ばくの低減を実現することが可能である。

 


図1 Test injection撮影
  • グループ開始時間を肺動脈(PA)ピーク到達時間とする。
  • 撮影時間は[(大動脈(Ao)ピーク到達時間+6秒)-PAピーク到達時間]とする。
  • 撮影範囲、撮影時間を考慮してパス数を決定する。

 

また造影剤注入後同量の生理食塩水による後押しを行う(表1)ことで、肺動脈、肺静脈、大動脈のみが造影される画像を撮影することができる。当院での撮影条件は表2の通り。

 


表1 造影剤注入条件

表2 撮影条件

 

診断結果

 

シャトルCTでは右気管支動脈、左気管支動脈から分岐する右気管支動脈の拡張蛇行、右内胸動脈の拡張と分枝の拡張蛇行、下横隔動脈の拡張蛇行を認めた (図2) 。また大動脈相の後期で右肺動脈への造影剤の逆流を認め、いわゆるBA-PAシャントの存在が疑われた (図3) 。以上の結果から喀血に対して気管支動脈等の塞栓術が適応と判断しカテーテル治療を行った。

 


図2 6相目の3D再構成
右は必要な血管を色分けして表示している
:右内胸動脈、:右気管支動脈、:左気管支動脈から分岐する右気管支動脈、:右下横隔動脈、:肺動脈 (右A5) への造影剤の逆流

 


図3 冠状断のMIP再構成画像
A)の肺動脈相で他の肺動脈よりは弱い造影効果をもつ肺動脈右A5()がB)の肺静脈相では造影効果が消失し、C)の下行大動脈相では他の肺動脈と異なり肺動脈右A5に強い造影効果を認める。これは気管支動脈(もしくは他胸郭周囲の体循環系動脈)とのシャント血流があるため、肺動脈相では体循環系からの逆流で他の肺動脈に比べ造影効果がやや低下し、大動脈相で気管支動脈からシャントを経て造影剤が肺動脈に逆流するためである。

 

 

カテーテルによる血管造影では右気管支動脈と右内胸動脈と肺動脈のシャントを認め (図4) 、同部位にgelを注入して血管閉塞を行った。

 

 


図4 BAEの際の血管造影
矢頭は体循環系動脈と肺動脈のシャント (BA-PAシャント) を経て逆行性に造影された肺動脈を示している

 

この症例ではシャトル撮影の手法を用いることで撮影範囲の制限無しにダイナミックスタディー (4Dスタディー) を行うことができた。その結果気管支動脈だけではなく、内胸動脈・下横隔動脈の形態も起始部から描出した上でBA-PAシャントも検出でき、同時に肺全体の血管構造の情報も得ることができる。またこの撮影では時相によっては大動脈と胸郭周囲の体循環系動脈のみが強く造影され、肺動静脈の造影効果が低下している画像を得ることができ、血管構造の同定が容易になる利点もある。以上の点でこの撮影法ではBAE前に非常に有用な情報を得ることができた。

シャトル撮影の特徴として通常の造影CTに比べ、はるかに少ない造影剤量 (通常は100mlのところTest injectionも含め36ml) で撮影が可能な点がある。この症例は待機症例であったためにBAEは後日行ったが、喀血は緊急症例であることが多く、造影CTを撮影した直後にBAEに入ることも多い。その際、造影CTでの造影剤使用量が少なければその分をBAE施行の際使用できるので低造影剤量で検査を行えることもこの撮影法の利点であると考える。

このように、64列CTを用いた造影シャトル撮影は肺血管全体を含む広範囲の4D画像を低被ばく・低造影剤で得られるため、血管構造や血流の把握に非常に有用な検査である。

 

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

撮影条件や部位、体格によって実際の被ばく量は変わります。
記載内容は、お断わりなく変更することがありますのでご了承ください。

薬事情報

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