SIGNA™ Pioneer MR29.1 AIR IQ Editionの導入と深層学習画像再構成技術による画質向上効果の臨床適用


日本医科大学武蔵小杉病院 放射線科
関根 鉄朗 先生

 

日本医科大学武蔵小杉病院様では2021年の移転の際、SIGNA Pioneer 3.0Tをご導入いただきました。Deep Learning 画像再構成をはじめMR Bone ImagingであるoZTEoやBlack Blood シーケンスであるMSDEの体幹部への適用など、幅広く臨床でご活用いただいています。

本稿では日本医科大学武蔵小杉病院 放射線科部長である関根 鉄朗 先生より、SIGNA™ Pioneer AIR IQ Editionにおける新規アプリケーションにおける臨床使用のご経験についてご執筆いただきました。

関根 鉄朗 先生

 

1.始めに

 

日本医科大学武蔵小杉病院ではSIGNA™ Pioneer AIR IQ Editionの導入により、コイルを含むAIR™の技術ならびに、深層学習画像再構成技術であるAIR™ Recon DLが使用できるようになった。現在、コイルに関しては48ch Headコイルと30ch AIR™ Anterior Arrayコイル(AIR AAコイル)の二つのAIR™ コイルを使用しており、頭部検査ならびに躯幹部共に画質が向上されている。
本稿では深層学習画像再構成を含むAIR™の技術による画質向上効果の臨床適用ならびにAIR™ IQ Editionで搭載された新しいアプリケーションについて、当院での臨床経験を元に概説する。

日本医科大学武蔵小杉病院外観

 

2.AIR™の技術による画質向上の恩恵

 

AIR™の技術による画質向上の恩恵は、すべての領域で感じられているが、重要視するポイントは領域により若干異なる。一般的に深層学習画像再構成の恩恵にはSNR向上が挙げられるが、それがリニアに診断能の向上に直結するわけではないことを認識しておく必要がある。

AIR™ Recon DLによる画質向上効果が臨床的にインパクトを与えるのは、「SNR向上」だけではなく「Thin slice化」「撮像時間短縮」が上げられる。検査部位により目的となる疾患や病態が異なるため、診断上必要となる画質であり撮像条件は柔軟に選択する必要がある。AIR™ Recon DLでは短時間撮像から高画質化まで、領域ごとに適した条件にカスタマイズが行いやすくなっている。従来のプロトコルでSNRが十分に保たれているような領域の検査の場合には時間短縮を図るようなパラメータ設定を行い、画質が不十分で診断に苦慮していたような領域の検査では空間分解能やSNRを向上させるなど、目的に応じて撮像パラメータを調整することが可能となる。

ここからは各領域における当院の撮像プロトコルの最適化の試みを紹介する。

 

 

2-1. 脳脊椎領域
従来の頭部MRのプロトコルでは全脳を5mmで行っていたが、AIR™ IQ Editionの導入によりスライス厚を3-4mmに変更した。従来のプロトコルより薄いスライスで撮像することにより、部分容積効果が軽減する。
今までMRIの診断ではCTとは異なり部分容積効果を無意識に許容していたが、Thin slice化によって想定以上の診断能向上効果を感じている。またThin slice化により全脳をカバーするのにスライス数が増加しているが、加算回数を減らしたり、パラレルイメージングのファクターを上げたりすることによって従来のプロトコルより短時間で撮像を行うことが可能となっている(Figure.1)。

Figure. 1
SIGNA Pioneer 3.0T AIR IQ Editionにおける頭部MR検査のプロトコル。従来より薄いスライスで短時間に撮像が可能となっている。

 

脊椎MRでは矢状断のスライス厚を2.5mmに変更している。脊椎のプロトコルにおいてもThin slice化することで、椎間孔の微細構造が描出され、脊柱管から外側に流れる神経根を連続的に追うことが出来る。
解剖構造が詳細に観察できる事は、読影の負担軽減にも繋がることと併せて、我々読影医に新たな気付きを与えてくれる。

 

2-2. 上腹部領域
上腹部でのMR検査ではSingle shot FSEを多用している。これに伴い、T2強調像のSNRの向上と撮像時間の短縮化がされている。
AIR™ Recon DLによりパラメータをHigh Bandwidthに設定が行いやすくなった。臨床的にHigh Bandwidthのインパクトが大きかった検査は、Single shot FSEによる2D MRCPとなる。Single Shot FSEにおけるHigh Bandwidth撮像は、echo spaceが短縮にともないサンプリング時間が短縮されるため、ブラーリングの軽減と併せて微細なモーションアーチファクトの影響を受け難くする。SSFSEにおけるHigh Bandwidth撮像は、患者の息止め得手/不得手にかかわらず動きの影響を低減させて、非常にシャープな画像が得られている。特に2D MRCPでは今まで以上に主膵管や副膵管の形態が良く見えてきており、微細な膵管の狭窄や拡張の有無を捉えられており、末梢膵管の走行の確認や早期膵癌の診断に非常に有用である(Figure.2)。

 


Figure. 2
AIR Recon DLによる2D MRCPの画質改善。分枝および末梢膵管まで明瞭に描出されている。

 

2-3. 前立腺
前立腺はAIR™ Recon DLの機能が最も効果的に活用されている領域の一つで、「SNR向上」「Thin slice化」「撮像時間短縮」の3つの恩恵が効率的に得られている。特に前立腺MR診断における重要なコントラストであるT2強調像と拡散強調像の画質向上効果の恩恵が大きい。

従来の前立腺のT2強調像プロトコルは、PI-RADSに準拠してスライス厚3mmで行っていたが、AIR Recon DLの導入により2mmで行っている。従来のシステムでPI-RADSに準拠したプロトコルを設定した場合、十分なSNRを得るためには時間をかけて撮像を行う必要があったが、AIR™ Recon DL導入システムでは2mmで撮像を行ってもSNRが十分に保たれた画像を、2分台で得ることが出来る(Figure.3)。部分容積効果の低減により前立腺のコントラストが明瞭になり、淡い信号領域内の低信号域が検出され、臨床的価値の高い画像が提供される。さらに前立腺がんの被膜外進展の検出にも有効で、脂肪織への浸潤などの同定に有用である。AIR™ IQ Editionによる画質向上によって微細な構造が見えるようになり、診断の信頼性が向上していると感じている。

 


Figure. 3
前立腺プロトコルの変遷。従来より薄いスライスで撮像することにより部分容積効果を低減させて、シャープな画像を得ることが出来る。

 

3. Bone Imaging

 

従来の放射線診断において骨情報の取得にはCTなどX線モダリティが必要であった。一方MRIはで骨変化と軟部組織の変化について統合的に診断を行うことが利点である。整形疾患で見られる疼痛は、体位によって症状の有無や強弱が異なってくる。当然、CTとMRは位置が完全に合致することはなく、わずかな体位の違いにより直接的に疼痛の原因を見つけることが困難となる場合がある。微細な骨や周囲組織の変化を観察しなければならない場合、MRとCTをside by sideで診断を行うことは意外と困難となる。oZTEoによりMRIで骨情報が得られるようになったことで、骨と軟部組織の位置情報が完全に合致した画像で診断できるようになる。

 

Figure. 4
oZTEoにより、一回のMRで炎症性変化と、骨棘形成を同時に観察することが出来る。

 

MRIで軟部組織の診断と併せて骨情報を得ることが出来ることで、患者さんの一連の検査のワークフローが改善される。Fig. 4は、腰椎のルーチン検査に、oZTEoを追加撮像した症例である。STIRで浮腫が見られる領域に、oZTEoで骨棘が形成されており、浮腫と伴う急性期の変化と、骨棘形成を伴う慢性的な変化の部位に浮腫を伴う急性期の変化が同時に起こっていることが確認されている。これは良く起こりえる病態ではあるが、腰痛の検査の際にMRIとCTをside by sideで読影をすることはほぼなく、oZTEoにより今まで気に留めていなかった病態の変化に新ためて確認することができる。

 

4. MSDE

 

血管病変の診断において、Black Blood imagingは動脈硬化性変化など血管壁構造の描出に重要である。血管の解剖構造を把握するには血管壁や外腔の情報も重要になってくる。一般的にMRアンギオで使用されるBright Blood MRAでは、狭窄など血管内腔の状態のみを観察しているに過ぎず、血管走行など概観を把握するには良いが、診断の上での情報量が乏しく、屈曲部や狭窄部ではdephasingに伴う狭窄の過大評価の影響を避けられない。Black Blood imagingでは血管内・血管壁・血管壁外構造の3者を1つのシークエンスで観察する事が可能となる。また、頭蓋内のクモ膜下出血を伴うような病態の場合、TOF-MRAでは血管周囲のクモ膜下腔がT1短縮効果により高信号に描出されるため、血管の走行を同定することが非常に困難になる。しかしBlack Blood imagingでは、血管内腔とクモ膜下腔内の血種を区別することは容易となる(Figure.5)。

 

Figure. 5
クモ膜下出血を伴う疾患では、Black Blood imagingにより血管内腔と血腫を区別することが出来る。

 

Black Blood imagingにおいてMSDEが使用できるようになったことで、診断能の向上に大きく寄与している。MSDEにより造影T1強調で血管内腔の血液の信号を確実に抑制することが出来るようになった。当院では下肢血管の造影検査でMSDE併用Cube T1を使用している。本バージョンで搭載されているMSDEは、広範囲で撮像を行ってもSNRの低下や信号ムラが診断に影響することはほとんどない。下肢血管も狭窄を来たす場合、従来のCube T1のみでは血管内腔の信号が残ってしまうことを経験したが、MSDEにより確実に血管内腔の信号を落とすことができるようになった(Figure.6)。血管壁プラーク内のSignal intensityを計測する場合、MSDEにより信号低下やムラを来たすと診断への信頼性が失われるが、広範囲でも安定した画質が得られているため、術前/術後の比較にも有用になっている。従来のBlack Blood imagingは撮像時間が長いことから当院では特殊検査の位置付けだったが、HyperSenseやMSDEを使用することで、撮像時間が短縮して高画質の画像が得られ、血管疾患において必須のシークエンスになっている。

 

Figure. 6
下腿部のMSDE併用Cube T1。造影前撮像で血管壁のプラークを確認した。造影剤投与後の撮像では血管壁の信号増強効果が確認された。

 

最後に

 

AIR™ コイルならびに AIR™ Recon DLの導入により、優れたMR画像が提供され安心してMR検査を施行することが出来る。

特に診断上dominantシーケンスで最も重要なコントラストであるT2強調像の画質が非常に向上しており、迷いなく診断に繋がる画像が提供され、読影負担の軽減にも繋がっている。さらに全体的にMRの画質向上効果により、診断能向上だけでなく検査ワークフローの改善にも大きく寄与する。質の高い画像が提供されるSIGNA™ Pioneer AIR™ IQ Edition の導入により、MR検査に関わるスタッフの業務へのモチベーション向上にも繋がっている事を感じている。

 


日本医科大学武蔵小杉病院 MRスタッフ一同

 

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

 

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