AIR™の技術による画質向上の恩恵は、すべての領域で感じられているが、重要視するポイントは領域により若干異なる。一般的に深層学習画像再構成の恩恵にはSNR向上が挙げられるが、それがリニアに診断能の向上に直結するわけではないことを認識しておく必要がある。
AIR™ Recon DLによる画質向上効果が臨床的にインパクトを与えるのは、「SNR向上」だけではなく「Thin slice化」「撮像時間短縮」が上げられる。検査部位により目的となる疾患や病態が異なるため、診断上必要となる画質であり撮像条件は柔軟に選択する必要がある。AIR™ Recon DLでは短時間撮像から高画質化まで、領域ごとに適した条件にカスタマイズが行いやすくなっている。従来のプロトコルでSNRが十分に保たれているような領域の検査の場合には時間短縮を図るようなパラメータ設定を行い、画質が不十分で診断に苦慮していたような領域の検査では空間分解能やSNRを向上させるなど、目的に応じて撮像パラメータを調整することが可能となる。
ここからは各領域における当院の撮像プロトコルの最適化の試みを紹介する。
2-1. 脳脊椎領域
従来の頭部MRのプロトコルでは全脳を5mmで行っていたが、AIR™ IQ Editionの導入によりスライス厚を3-4mmに変更した。従来のプロトコルより薄いスライスで撮像することにより、部分容積効果が軽減する。
今までMRIの診断ではCTとは異なり部分容積効果を無意識に許容していたが、Thin slice化によって想定以上の診断能向上効果を感じている。またThin slice化により全脳をカバーするのにスライス数が増加しているが、加算回数を減らしたり、パラレルイメージングのファクターを上げたりすることによって従来のプロトコルより短時間で撮像を行うことが可能となっている(Figure.1)。
Figure. 1
SIGNA Pioneer 3.0T AIR IQ Editionにおける頭部MR検査のプロトコル。従来より薄いスライスで短時間に撮像が可能となっている。
脊椎MRでは矢状断のスライス厚を2.5mmに変更している。脊椎のプロトコルにおいてもThin slice化することで、椎間孔の微細構造が描出され、脊柱管から外側に流れる神経根を連続的に追うことが出来る。
解剖構造が詳細に観察できる事は、読影の負担軽減にも繋がることと併せて、我々読影医に新たな気付きを与えてくれる。
2-2. 上腹部領域
上腹部でのMR検査ではSingle shot FSEを多用している。これに伴い、T2強調像のSNRの向上と撮像時間の短縮化がされている。
AIR™ Recon DLによりパラメータをHigh Bandwidthに設定が行いやすくなった。臨床的にHigh Bandwidthのインパクトが大きかった検査は、Single shot FSEによる2D MRCPとなる。Single Shot FSEにおけるHigh Bandwidth撮像は、echo spaceが短縮にともないサンプリング時間が短縮されるため、ブラーリングの軽減と併せて微細なモーションアーチファクトの影響を受け難くする。SSFSEにおけるHigh Bandwidth撮像は、患者の息止め得手/不得手にかかわらず動きの影響を低減させて、非常にシャープな画像が得られている。特に2D MRCPでは今まで以上に主膵管や副膵管の形態が良く見えてきており、微細な膵管の狭窄や拡張の有無を捉えられており、末梢膵管の走行の確認や早期膵癌の診断に非常に有用である(Figure.2)。
Figure. 2
AIR Recon DLによる2D MRCPの画質改善。分枝および末梢膵管まで明瞭に描出されている。
2-3. 前立腺
前立腺はAIR™ Recon DLの機能が最も効果的に活用されている領域の一つで、「SNR向上」「Thin slice化」「撮像時間短縮」の3つの恩恵が効率的に得られている。特に前立腺MR診断における重要なコントラストであるT2強調像と拡散強調像の画質向上効果の恩恵が大きい。
従来の前立腺のT2強調像プロトコルは、PI-RADSに準拠してスライス厚3mmで行っていたが、AIR Recon DLの導入により2mmで行っている。従来のシステムでPI-RADSに準拠したプロトコルを設定した場合、十分なSNRを得るためには時間をかけて撮像を行う必要があったが、AIR™ Recon DL導入システムでは2mmで撮像を行ってもSNRが十分に保たれた画像を、2分台で得ることが出来る(Figure.3)。部分容積効果の低減により前立腺のコントラストが明瞭になり、淡い信号領域内の低信号域が検出され、臨床的価値の高い画像が提供される。さらに前立腺がんの被膜外進展の検出にも有効で、脂肪織への浸潤などの同定に有用である。AIR™ IQ Editionによる画質向上によって微細な構造が見えるようになり、診断の信頼性が向上していると感じている。
Figure. 3
前立腺プロトコルの変遷。従来より薄いスライスで撮像することにより部分容積効果を低減させて、シャープな画像を得ることが出来る。