Rapid Pre-scanでは15秒/bedという超短時間収集によるノイズを軽減させるため、上述のように高いβ値(1800)にて再構成を行っています。Q.Clearでは逐次近似のループの中に、近傍のvoxel間のばらつきを考慮してノイズを軽減させるモデルを組み込んでいるためポストフィルタによる一律の均てん化とは異なるclearな画像を提供しますが、β値を上げると、真の集積部位にもノイズ除去効果が影響し集積値は低くなる傾向があります。そのためRapid Pre-scanでは、小さな淡いhot spotは過小評価されますが、大きな集積や強い集積はNormal Scanに劣らず描出されます(図3)。
図3.Rapid Pre-scan(青枠)と Normal Scan(オレンジ枠)のMIP画像と横断像(鎖骨上部リンパ節転移、胸部下部レベル).
食道癌と縦隔のリンパ節、腹部傍大動脈の数個のリンパ節は同等に描出されているが、左鎖骨上部のリンパ節や右下肺野の小さな転移(→)の描出は、Normal Scanに比べRapid Pre-scanで不明瞭である。
<下肢病変の評価>
従来、FDG-PETの全身像は、大腿上部から頭部の撮像を基本としていましたが、PET検査施行後数週間も経たないうちに、病的骨折により下肢の骨転移が発見されるという苦い経験がありました。PET検査では “全身検査” と謳っている以上、下肢までの撮像があることが望ましいものの、下肢転移が発見される頻度は高くなく、長い下肢すべてを撮影する足先までの撮像を全例に行うのは実用的とは言えませんでした。ルーチンで撮像範囲に入ってはいなかった下肢について、多少の画質は犠牲にしても治療方針決定に影響を及ぼしうる下肢病変を見つける全身撮像を行いたい、というのが Rapid Pre-scanを撮ることにこだわった一番の理由です。
がん患者の中には、結節や疼痛を伴う四肢の病変については、治療中の悪性腫瘍と比べると“問題のないもの”との自己判断に基づき、主治医には何らかの症状があっても長い間相談していないことも多くあります。 全身を撮像することにより、Normal Scanでは確認できない下肢の転移が見つかるのは数%にすぎず、実際には悪性病変よりも下肢の関節炎や滑液包の炎症、皮膚、皮下の炎症が描出されるだけのことの方が多いですが、想定外の併存疾患が見つかったり、FDG集積を伴う反応性鼠径リンパ節腫大の原因と考えられる活動性の高い炎症病変の描出により、主治医の戸惑いや追加精査を減らすことにも寄与しています。Rapid Pre-scanで異常があれば、MRIなどの追加精査が行われるためNormal Scanでの撮像範囲拡大は不要であると割り切れば、全身情報を追加できる2分半のRapid Pre-scanは貴重です。
図4.Rapid Pre-scanで予想外の下肢病変が検出できた3症例の下肢の画像
<遅延像追加撮像の件数減少>
FDG-PET/CTでは60分後からの撮像に加えて、遅延像を追加することがあります。従来装置での再撮像の目的は、①病変の性質を評価するために集積程度の経時的変化を確認すること、②腹部の限局性集積が腸管や尿管の生理的分布であるのか病的分布であるの判断をすること、③CTとPETでの頭部や腕の位置ずれが原因となるアーチファクトを呈してしまったために再撮像に大別されていました。 Discovery MI-25でRapid Pre-scanを追加することにより、②の目的の遅延像の追加件数を減らすことができています。Discovery MI-25 の分解能の向上により、腸管の小さなhot spotが恒常性をもって確認され、内視鏡で大腸腫瘍が確認されることも頻度が増えました(図5)。ルーチンで2回の撮像ができることにより、従来の遅延像撮像を減らしても、腸管や尿管の限局性集積の評価を行いやすくなりました。また、Rapid Pre-scanを足先から頭部に向けて撮像し、Normal Scanは頭部から骨盤部に折り返す撮像を行うことで、頭部のPET撮像を行うタイミングが早くなりました。それにより、CT撮像との位置ずれが生じる症例が減り③の再撮像件数もほぼなくなりました。このように遅延像・再撮像の件数が減ったことで、結果的に検査スケジュールに遅れをきたすことが少なくなり、従来よりも検査件数が増加してもスタッフの就業時間内で対応しやすくなりました。
図5.盲腸に13㎜大の腺腫内癌が見つかった症例
Rapid Pre-scan(青枠)とNormal Scan(オレンジ枠)にて恒常性のある点状集積が同一部位に見られたため、遅延像を追加することなく、局所病変の存在を疑うことができ内視鏡をrecommend することができた。