Discovery MI-25を用いたRapid Pre-scanの取り組みと臨床的有用性


滋賀県立総合病院 臨床研究センター
奥山 智緒 様

施設紹介

 

都道府県がん診療拠点病院として滋賀県のがん診療の一端を担う当施設では、PET/CT装置の更新により2022年10月よりDiscovery MI-25を導入しPET診療と研究を行っています。4月号では、機種選定からファントム実験やボランティア撮像をもとにして本装置の性能を生かした全身FDG-PET/CTの撮像法プロトコールを決定するまでの技術的な面での当施設の取り組みについて紹介しました。

 

FDG-PET/CTのルーチン撮像に取り入れた条件

 

本装置における感度の高さ、空間分解能、時間分解能の高さと5-ring: 25 cmの広い視野を活用し、下記3つの条件を満たすためのファントム実験とボランティア撮像の結果をもとに腫瘍のFDG-PET/CTの撮像法をルーチン条件を決定しました。(詳細は4月号記事参照)

 

<かなえたい条件>
条件1.性能を活かした高分解能画像を得られる
条件2.被ばくを低減する
条件3.頭部から足先までの短時間収集をpre-scanとして取り入れる
条件4.手間や患者の苦痛を増やさずに体動や呼吸のアーチファクトを減らす
条件5.検査件数増加に対応すべく1人当たりの撮像時間を20分以内に収める

 

<Rapid Pre-scan+Normal Scanを組み合わせたルーチンの撮像・再構成条件>
患者スタッフの被ばく低減のため、21.7cps/kBqの高感度を生かして18F-FDGの投与量は3.0MBq/kgとし、静脈注射より60分後から撮像を開始しています。再構成にはQ.Clearを用い、2分/bedでの頭部から大腿上部までの撮像をNormal Scanとしました。15秒/bed で足先から頭頂までの全身撮像(Rapid Pre-scan)を行うことをルーチンプロトコールとしました。ファントム実験とボランティアスキャン(図1)をもとにβ値はNormal Scanでは500、Rapid Pre-scanでは1800に決定しました。

Normal Scanにおいてはデバイスレスでサイノグラムから呼吸サイクルを認識し最大吸気をトリガー(0%)として、動きの少ない30-80%の位相(呼気位相)のデータを使用するAdvanced Motion Freeを採用した呼吸同期を全例に行っています。図2にこれらを合わせたルーチンの撮像条件を示します。こうして1人20分以内の撮像プロトコールが可能となりました。

 


図1.Q.Clearのβ値と収集時間の違いによるファントム画像と、15秒/bedの健常ボランティアの画像

 


図2.Rapid Pre-scanとNormal Scanを組み合わせたルーチン撮像プロトコール

 

高感度、高分解能を有する半導体PET装置の性能により、従来よりも2割投与量を減らした2分収集のNormal Scanでは、従来装置の3分/bed 収集よりも小病変を検出でき、Advanced Motion Freeの利用により下肺野や上腹部の病変が輪郭明瞭に描出できるようになりました。上述の条件1、2については、十分クリアできたことは言うまでもありませんが、本稿では、当院で新しく取り組んでいるRapid Pre-scanについて、紹介します。

 

Rapid Pre-scanの特徴

 

Rapid Pre-scanでは15秒/bedという超短時間収集によるノイズを軽減させるため、上述のように高いβ値(1800)にて再構成を行っています。Q.Clearでは逐次近似のループの中に、近傍のvoxel間のばらつきを考慮してノイズを軽減させるモデルを組み込んでいるためポストフィルタによる一律の均てん化とは異なるclearな画像を提供しますが、β値を上げると、真の集積部位にもノイズ除去効果が影響し集積値は低くなる傾向があります。そのためRapid Pre-scanでは、小さな淡いhot spotは過小評価されますが、大きな集積や強い集積はNormal Scanに劣らず描出されます(図3)。

 

図3.Rapid Pre-scan(青枠)と Normal Scan(オレンジ枠)のMIP画像と横断像(鎖骨上部リンパ節転移、胸部下部レベル).

食道癌と縦隔のリンパ節、腹部傍大動脈の数個のリンパ節は同等に描出されているが、左鎖骨上部のリンパ節や右下肺野の小さな転移(→)の描出は、Normal Scanに比べRapid Pre-scanで不明瞭である。

 

 

<下肢病変の評価>
従来、FDG-PETの全身像は、大腿上部から頭部の撮像を基本としていましたが、PET検査施行後数週間も経たないうちに、病的骨折により下肢の骨転移が発見されるという苦い経験がありました。PET検査では “全身検査” と謳っている以上、下肢までの撮像があることが望ましいものの、下肢転移が発見される頻度は高くなく、長い下肢すべてを撮影する足先までの撮像を全例に行うのは実用的とは言えませんでした。ルーチンで撮像範囲に入ってはいなかった下肢について、多少の画質は犠牲にしても治療方針決定に影響を及ぼしうる下肢病変を見つける全身撮像を行いたい、というのが Rapid Pre-scanを撮ることにこだわった一番の理由です。

がん患者の中には、結節や疼痛を伴う四肢の病変については、治療中の悪性腫瘍と比べると“問題のないもの”との自己判断に基づき、主治医には何らかの症状があっても長い間相談していないことも多くあります。 全身を撮像することにより、Normal Scanでは確認できない下肢の転移が見つかるのは数%にすぎず、実際には悪性病変よりも下肢の関節炎や滑液包の炎症、皮膚、皮下の炎症が描出されるだけのことの方が多いですが、想定外の併存疾患が見つかったり、FDG集積を伴う反応性鼠径リンパ節腫大の原因と考えられる活動性の高い炎症病変の描出により、主治医の戸惑いや追加精査を減らすことにも寄与しています。Rapid Pre-scanで異常があれば、MRIなどの追加精査が行われるためNormal Scanでの撮像範囲拡大は不要であると割り切れば、全身情報を追加できる2分半のRapid Pre-scanは貴重です。

 


図4.Rapid Pre-scanで予想外の下肢病変が検出できた3症例の下肢の画像

 

<遅延像追加撮像の件数減少>
FDG-PET/CTでは60分後からの撮像に加えて、遅延像を追加することがあります。従来装置での再撮像の目的は、①病変の性質を評価するために集積程度の経時的変化を確認すること、②腹部の限局性集積が腸管や尿管の生理的分布であるのか病的分布であるの判断をすること、③CTとPETでの頭部や腕の位置ずれが原因となるアーチファクトを呈してしまったために再撮像に大別されていました。 Discovery MI-25でRapid Pre-scanを追加することにより、②の目的の遅延像の追加件数を減らすことができています。Discovery MI-25 の分解能の向上により、腸管の小さなhot spotが恒常性をもって確認され、内視鏡で大腸腫瘍が確認されることも頻度が増えました(図5)。ルーチンで2回の撮像ができることにより、従来の遅延像撮像を減らしても、腸管や尿管の限局性集積の評価を行いやすくなりました。また、Rapid Pre-scanを足先から頭部に向けて撮像し、Normal Scanは頭部から骨盤部に折り返す撮像を行うことで、頭部のPET撮像を行うタイミングが早くなりました。それにより、CT撮像との位置ずれが生じる症例が減り③の再撮像件数もほぼなくなりました。このように遅延像・再撮像の件数が減ったことで、結果的に検査スケジュールに遅れをきたすことが少なくなり、従来よりも検査件数が増加してもスタッフの就業時間内で対応しやすくなりました。

 

図5.盲腸に13㎜大の腺腫内癌が見つかった症例

Rapid Pre-scan(青枠)とNormal Scan(オレンジ枠)にて恒常性のある点状集積が同一部位に見られたため、遅延像を追加することなく、局所病変の存在を疑うことができ内視鏡をrecommend することができた。

 

想定外の効果

 

Rapid Pre-scanはNormal Scanの前に行う全身スキャンであり、診断はNormal Scanで行うことを基本としています。Rapid Pre-scanのみで検査を終了することは原則ありませんが、検査台に載ってから3分後には全身のCTとRapid Pre-scanによる全身のPET収集が終了しているため、閉所恐怖症や疼痛によりベッド上での長時間の体位保持が困難なために収集開始後数分で撮像を断念せざるを得なくなる症例においても、ある程度全身の診断を行うことができるのは大きなメリットであると考えています。

また、半導体装置特有の感度の高さとSiPMによる分解能の高さにより、小さな集積が従来装置と比べて生理的集積や非特異的な反応性リンパ節の集積などにおいても、明瞭に描出されすぎる傾向がある点は、メリットでありながら、機種変更の際の画像の評価を難しくする点でもあります。前回検査が旧装置で撮像されている場合に、比較により過大評価となる可能性があります。新装置での異なる撮像・再構成条件の画像を2種類得られることにより、ファントム実験の結果からも従来装置での撮像の像に近い像を呈しているRapid Pre-scanの画像を機器更新による装置間差を加味した読影をし易くもなっています。

 

図6.ファントム画像と、同一症例画像 左(青枠):Rapid Pre-scan、中(オレンジ枠):Normal scan、右(灰枠):従来装置での1年前の画像。

Normal scanでは両側肺門の集積が目立って見えるが、Rapid Pre-scanとNormal scanでの形態、集積程度から、著変のない生理的集積を見ていると判断される。

 

今回の機器更新にあたっては、診療放射線技師と診断医の間でかなえたい条件を十分に吟味し、広い視野を得られる5-ring のDiscovery MI-25、複数のQ.Clearを用いた画像再構成を同時に処理することを可能とするQ.CORE Power Plusを導入できたこと、並びにGEヘルスケア社の技術者に装置の性能をじっくり尋ねることができたことがRapid Pre-scanの実臨床化につながりました。まだまだ多くの可能性を秘めた装置の特性を生かし、患者さんのためになる検査を追求していきたいと思っています。

 

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

薬事情報

JB08142JA